01 Keyword HOT

慢性呼吸不全を改善するHOT慢性呼吸不全を改善するHOT 慢性呼吸不全を改善するHOT

在宅医療とは、医師の指導のもと、患者さんが自宅で生活をしながら受ける医療のことです。2016年3月現在、25の分野が健康保険の適用になっています。その中で約16万人もの患者さんに利用されているのが、自宅に酸素濃縮装置を設置して行う在宅酸素療法(HOT)です。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺結核後遺症などの慢性呼吸不全による低酸素血症を改善し、患者さんのQOL向上はもちろん、入院回数の減少や生存率の改善に貢献できると期待されています。この療法が普及するまでは、患者さんは自費で購入した酸素ボンベから酸素を吸入するか、長期間入院するほかなく、身体的にも経済的にも大きな負担を強いられていました。こうした状況を、帝人ファーマは高度な技術と使命感あふれる人材によって打破してきました。

02 Keyword Polymer

高分子技術の応用 高分子技術の応用 高分子技術の応用

帝人グループの在宅医療用の酸素濃縮装置の技術は、戦後間もない1950年代に早くも萌芽が見られます。「高分子研究所」を設立し、高分子化学を応用した素材開発などを始めていました。そのひとつに「薄膜」の研究があります。薄膜はミクロン単位の非常に薄い膜のことで、溶媒に溶かしたポリマー(高分子の有機化合物)溶液を水面に落として製造します。70年代には多くの化学系企業がこの膜に注目し、海水の淡水化などに取り組んでいました。そんな中、高分子研究所のメンバーは「水で可能ならば気体でも物質の分離ができるのでは」と発想を大胆に転換します。71年に新たな薄膜開発をスタートさせ、試行錯誤の末、偶然にも古い酸化の進んだ溶剤を使ったことで成功します。そこから「気体分離法」の製造特許が確立。一定以上の圧力で空気を吹き付けると、膜を透過した空気の酸素濃度が約2倍になる酸素富化膜が開発されます。日本初の膜型酸素濃縮装置誕生につながる快挙でした。

03 Keyword Originator
「在宅酸素療法の父」との出会い
「在宅酸素療法の父」との出会い
「在宅酸素療法の父」との出会い

しかし酸素富化膜は当初、用途が決まっておらず、半ば忘れられた研究でした。1978年になって、もう一度この技術に光を当てるべく、生産技術研究所のスタッフが調査のため渡米。ゼネラル・エレクトリック(GE)社の子会社がHOT用の酸素濃縮装置に応用しているとの情報を入手しました。「これは社会の役に立つ」と確信したスタッフは、日本の呼吸器医療の現場でも調査を開始します。幸い、医薬事業本部が設立されて専門医とのパイプができはじめていた頃。各地でお話をうかがうと、慢性呼吸不全の患者さんは全国に5〜10万人いると推定され、在宅での酸素療法が患者さんの大きなメリットになることがわかりました。そこで同療法を推進し研究をすすめている米国コロラド大学医学部のトーマス L. ぺティ教授と看護師のルィーズ M. ネット氏が81年に来日された折、帝人にもお迎えして詳細なお話をうかがいました。さらに同年秋、役員があらためて両氏のもとを訪ねると「日本でもHOTの普及・啓発を」と、協力への快諾を得ることができました。のちに全国5都市(仙台・東京・大阪・広島・福岡)での講演など同療法の推進役としてご尽力いただくことになります。

看護師のルィーズ M. ネット氏とトーマス L. ペティ教授

04 Keyword Departure

新規事業の船出 新規事業の船出 新規事業の船出

1982年、ついに日本初の医療用膜型酸素濃縮装置の製造が承認され、在宅酸素療法事業が幕をあけます。酸素濃縮装置は患者さんにとって大切な命綱のひとつ。帝人は代理店を経由せず、一貫して機器に責任を持つ「直販体制」をとりました。当時の医療機器業界では異例のことです。といってもまずは専任スタッフ1名からスタート。翌年7名に増員されましたが、全国での販売活動をはじめ、代金の回収や6か月ごとの定期点検などを一人で何役もこなさなければなりません。機器には専任担当者の自宅の電話番号が貼り付けてあり、なにかあれば24時間365日、患者さんの家に駆けつけます。こうして患者さんや医師の要望を直接うかがい、厚い信頼を獲得していったのです。

在宅酸素療法が健康保険の適用前とあって、販売は個人契約で1台98万円。患者さんが入退院をくりかえしたり高齢であったりすると二の足を踏むご家族も少なくなかったようです。こうした背景から採られたのが、現在も続くレンタル方式です。直販と専任担当者制とともに3つの基本方針となり、あわせて担当者の行動指針として「5Sの精神」が策定されました。

※5S =SAFETY「安全」、SINCERITY「誠実」、SERVICE「奉仕」、SPEED「迅速」、SMILE「笑顔」

05 Keyword Density

より高濃度の酸素を求めて より高濃度の酸素を求めて より高濃度の酸素を求めて

吸着型酸素濃縮装置ハイサンソ®吸着型酸素濃縮装置ハイサンソ®

少しずつ利用者が増えるのにともない、膜型酸素濃縮装置の問題点も明らかになっていきました。酸素を選択的に透過する膜が6か月ほどで劣化傾向を示すことが主な原因でした。ぺティ教授からの情報もあり、1984年、米国企業から吸着型の酸素濃縮装置を導入することを決定します。吸着型は空気中の窒素を優先的に吸着する吸着材を用いて高濃度の酸素を取り出します。膜型の酸素濃度が約40%だったのに対し、吸着式は約90%。高濃度の酸素なので流量が少なくてすみ、広範囲な患者さんに使用していただけます。ただ米国製は高い圧力で空気を圧縮するコンプレッサーの運転音が58デシベルもありました。普通の会話の音量が60デシベルであることを考えると、夜間に枕元で使うには音が気になるレベルです。そこで基幹部品のみを輸入し、防音を工夫した木製の筐体に組み込むノックダウン生産方式を採用しました。以降もさまざまな問題が生じましたが、逐一対応する中で技術が培われ、たえず改良を続けたことで医療現場や患者さんの信頼を高めていったのです。

後編では健康保険適用までの道のりや、「安心と信頼」をキーワードにしたトータルサポートの構築についてお伝えします。

吸着型酸素濃縮装置
ハイサンソ®