社会の高齢化が進む日本。現在、65歳以上の高齢者は3,459万人と、総人口の27.3%を占めています※。2025年には高齢化率は30%を超え、その後も増加の一途をたどると予測されています。
こうした急速な高齢化に伴い、医療も変革期を迎えています。これまでは救命や治癒、社会復帰などを前提とした「病院完結型」の医療でしたが、今後は高齢者が住み慣れた地域で病気と共存しながら生活の質(QOL)を保つ「地域完結型」医療が推進されます。地域の医療機関がそれぞれの特長を生かしながら役割を分担し、連携して効果的・効率的に医療を提供していこうというものです。たとえば慢性疾患の投薬などは身近なかかりつけ医が受け持ち、専門的な治療や高度な検査などは地域の中核病院が担当します。いずれは慢性期の約30万床が在宅や介護施設での治療にシフトするといわれています。
※総務省「人口推計」平成28年10月1日(確定値)

地域で高齢者を支えるのは医療だけではありません。高齢者は単独世帯や夫婦のみ世帯が多く、認知症高齢者の増加も見込まれることから、安心して暮らせる住まい、生活支援、介護、予防までが医療と一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が不可欠です。かかりつけ医をはじめ訪問看護師、薬剤師などの医療チームや、介護福祉士、ソーシャルワーカー、ケアマネージャーら幅広い職種が情報を共有し、切れ目なく連携することが求められます。
ところが現状ではさまざまな課題がハードルになっています。紙媒体での記録ではリアルタイムでの情報共有が難しいこと。バイタルデータが測定者ごとに分散して経時的な状況変化が把握しづらいことなど。かといって複雑な機能を擁するICT(Information and Communication Technology)では多忙な専門職が操作を習得するまでに時間がかかり、個人情報の保全にも不安が残ります。多様な情報をスムーズに管理・共有できるシステムの開発が待たれていました。

在宅医療の質向上に挑む帝人ファーマは、こうした課題に強みの一つである「ヘルスケアとITの融合」によって取り組みました。すでに在宅酸素療法に用いる酸素濃縮装置のモニタリングやCPAP療法のデータマネジメントにおいて支援システムを展開しており、24時間365日体制の人的支援と両輪で支える在宅医療事業の発展モデルと位置づけました。
そこで地域包括ケアシステムによる医療・介護の総合的な提供体制をめざす「医療介護総合確保推進法」が施行された2014年に「在宅医療ICT推進部」を新設。翌年には多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」を上市しました。体温や脈拍、血圧、血中酸素飽和度といったバイタルデータをスマートフォンなどのモバイル端末に取り込み、複数の医療・介護関係者がリアルタイムで情報共有できるしくみです。厚生労働省のガイドラインに準拠したセキュリティも確保。症状の悪化などを早期に把握することが可能となります。現在、各地の医療機関や医師会に採用され、地域包括ケアの質向上に貢献しています。

地域包括ケアシステムは、高齢者が重度の要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、地域が一体となって支えることが目的です。帝人ファーマも予防から治療、介護までを支える総合的なサービスの提供を目指し、地域包括ケアシステムをサポートしていきます。「バイタルリンク」の上市はその第一歩。多職種の専門性を尊重しつつ、これまで培ってきたヘルスケア領域とITの融合によって「高齢者の尊厳を支えるケア」および「自立支援」を全国に実現したいと考えています。
社会や医療のスタイルが変化しても、QOL向上に努め、皆さまに安心と笑顔のある暮らしを提供していきます。

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